制作物⑴
演劇ワークショップ
ファミリーホームのお母さんに里子の話や家族の話を伺う中で印象的だったのが、何度も繰り返しおっしゃっていた「結構普通なんですよ」ということば。訪問を重ねていくうちに、私たち制作チームのメンバーも「“社会的養護”という言葉はあるけれど、至って“普通”の家庭」なのだと認識するようになりました。
以前は里親家庭を特別なもので、自分たちとは違うものだととらえていたのだと思います。だけれど、“里親家庭だから”というわけではなく、そもそも家族のかたちは一人一人違うのが当たり前。むしろ自分たちがこれまで抱いていた“普通”とは何だったのか。ファミリーホームでの出会いは普通の概念を揺さぶられる経験になりました。
家族のかたちには答えがない。だからこそ今回は私たちの制作物に触れた人が、自分にとっての“普通”や、“家族”のあり方といった、答えのない問いを考える・とらえなおすような機会を作りたいと思い、演劇ワークショップを制作しました。
その名の通り、演劇的な手法を用いたワークショップのこと。演劇を学ぶために行うこともあれば、演技力向上のための練習にする、ただ参加者が楽しむ事が目的など様々な場合があります。
今回は自分とは違う他者の役になることで、その役の人の気持ちを想像するような時間としたいと思っています。自分でもあるけれどその役の人でもある。
演じることを通して、ファミリーホーム家庭の“普通”と、自分が持つ“普通”の家族の価値観が混ざり合うのが体験できるような形をイメージしています。
演劇ワークショップとは
演じるとは
「演じる」と聞いてどんなことをイメージしますか?
舞台、映画、ドラマ、ミュージカルなどでプロが演じている姿でしょうか。
私たちの日常にも、「演じる」に似た行為があります。例えば家族や友人、同僚など、目の前にいる人によって言葉遣いや態度が変わることはないですか?これも「演じる」に近いことではないでしょうか。
今回の演劇ワークショップは、役に“なりきる”というよりは、のことを“わかりきれない”ことを前提に、嘘をつく体験ととらえています。
「演じる」ことはフィクションの世界。正解はありません。「難しい」「違和感がある」など迷いやモヤモヤがあってよいと思っています。
ワークショップの進め方
演劇ワークショップ①
・テーマ:「朝ごはん、なんで残り物なの?」
・2人組で親・子の役を演じるワーク
①役と設定が書かれたカードを配布
他の人には見えないように確認してください。
②役作りタイム:1分程度
カードの情報をもとに何を話すか、
どう振る舞うかを考えてみてください。
周囲とは話をせず、お一人でイメージする時間です。
③ワーク:5分程度
場面はある日、家族で食べる朝ごはんができたとき。
会話のスタートは親役からです。
カードの情報をもとに、親役と子役それぞれ演じてみてください。
④楽屋裏タイム:3分程度
演じてみて感じたことなど自由に、2人組で話してみてください。
演劇ワークショップ②
・テーマ:「これからどっちの姓を名乗る?」
・3人組で親・子・親の友人の役を演じるワーク
①役と設定が書かれたカードを配布
他の人には見えないように確認してください。今回は2つの場面からなるワークで、最初の場面①では親役と親の友人役が話をします。場面②では、親と子役が話をします。
②役作りタイム:1分程度
カードの情報をもとに何を話すか、どう振る舞うかを考えてみてください。周囲とは話をせず、お一人でイメージする時間です。
③ワーク場面⑴親から友人に相談:5〜7分程度
場面はある日、10年来の友人同士が1ヶ月ぶりに会ってお茶をしながら、里親家庭の子どもの苗字をどうするかについて話すとき。親と友人が二人で話をします。子ども役の人はお休み。そこにはいない設定ですが、二人の様子を見ていてください。
会話のスタートは里親をしている親役からです。カードの情報をもとに、親役と友人役それぞれ演じてみてください。
④次の場面に向けてひとやすみ:1分程度
ひとやすみして呼吸を整えましょう。
次の場面に向けて心の準備をしてください。
⑤ワーク場面⑵親と子で話す:5〜7分程度
場面はある日、親と子で話をするとき。
会話のスタートは里親をしている親役からです。場面①を踏まえて、どう話すか考えてもらったと思うので、自由に始めてください。
カードの情報をもとに、親役と友人役それぞれ演じてみてください。
⑥楽屋裏タイム:3分程度
演じてみて感じたことなど自由に、3人で話してみてください。
演劇ワークを終えて:運営側から里親家庭の現場を伝える
ワーク①②に関連する実際の里親家庭でのエピソードを運営側から伝える
-
「朝ごはん、なんで残り物なの?」と言われたときの、里親さんの実際の気持ち
-
「どっちの姓を名乗る?」のシチュエーションの、里親さんの実際の伝え方
-
その他のエピソード
-
家の境目がわからない、隣の家の敷地という認識がない…
-
里子は当初大皿料理が食べられなかった…
-
大人がゴロゴロしていることに里子が驚いた…
-
大人が体調を崩すのを知らなかった…
-
振り返りティータイム:参加する前後の気持ちの変化を味わう
演劇ワークショップに参加する前と、参加した後の、“自分の心の変化”について、「色が変わるお茶」を飲みながら考えてみましょう。今回飲むのは「バタフライピー」というハーブのお茶で、見た目は青色です。
①参加する前の気持ちを振り返る
運営側からお茶を配布しますので、まずはこの青色のお茶を飲みながら、「ワークショップ参加する前に感じたこと」を10分程度、ランダムに作った2~3人組で話します。
②参加した後の気持ちを振り返る
次に、レモンを数滴たらしてみます。すると、お茶が紫色に変化します。
色が変わったお茶を飲みながら「ワークショップに参加した後、今感じていること」を10分程度、先ほどの2~3人組で話しましょう。
③「重要なことは点滴のように伝えていく」現場のエピソード
訪問時、里親さんはあるエピソードを伝えてくれました。それは「重要なことは点滴のように伝えていく」という話。
里子がある日「本当のお母さん(生みの親)に会いたい」と言ったそう。ですがこの時、生みの親はその後再婚し子どももいたため、なかなか会うことが難しい状態でした。
全ての事実をいきなり伝えると受け取る子どもが驚いてしまうかもしれない。そのため里親さんは事実を「点滴のように、少しずつ伝えた」と表現していました。「お母さんは再婚しているんだって」「再婚して、今は子どもも生まれて一緒に暮らしているんだよ」「子どももいるから、今は会うのは難しいかもしれないね」といったように、少しずつ点滴のように伝えていくことで、子どもが事実を受け止められるようにと考えたそう。
「重要なことは点滴のように伝えていく」この話を聞いて、私たちはきっと誰しも変化を体に少しずつ取り込んでいくのではないかと考えました。そして「変化を取り入れる」ことを、お茶を飲むという行為に置き換えたのです。
私たちはお茶の色の変化と、自分の気持ちの変化を連動しているかもしれないともとらえています。参加者の方には気持ちの変化を視覚的にも味わってもらえたらと思っています。
色が変わるお茶について詳細は、こちらのページもご覧ください。